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<HR color=#FFCCFF>3 学校は退屈だ。 ──シンが居ないから。 何で態々通う必要があるんだろう。吸血鬼に学歴なんて馬鹿馬鹿しくて。 答えは簡単。“生きる糧を得る為”だ。まあ,人間のそれとは少し意味が違うけれど……。 勉強して,働いて,生活費を稼ぐ。それも勿論目的ではあるけれど。 “人間”に怪しまれずに,“人間”が沢山居る所に紛れ込む。そう彼等こそか我等の糧……。 今迄何度となく,クラスメイトや教師達を襲った。ちょっと声をかけると簡単に物陰迄着いてきてくれるから,こんなんでいいのか……とむしろ不安を覚えてしまう。 吸血された人間は,その吸血鬼に服従してしまう。まぁ,それも理ではあるけれど。余程名のある血統の,魔力の強い吸血鬼でないとそんなうまくはいかない。せいぜい“心酔”がいい所だ。 吸血鬼として生まれ変わるというコトもない。それもこちらが意図するか,純血種であるかでないと無理な話だ。大体,吸った側から吸血鬼になられてはこちらの“糧”がなくなってしまうではないか。 日が経つにつれ段々“効き”の薄まる心酔者。操ろうと思えば出来ないこともないけれど,一々面倒臭いのでキラはパシリ程度にしか使わない。 ──今日は何だか気分が悪い。 昨日吸血したばかりの名前も知らない男子に,キラは昼食を買ってきて貰うコトにした。購買部のカレーパン。今迄口にした食料の中でも割とお気に入りの部類だ。さっくり揚げられた皮に,野菜と鶏肉たっぷりの香り高いカレーがたっぷりつまっている。 ──そろそろ,考えた方がいいのかな。 吸血鬼には従者がいるものだ。多くは蝙蝠だったり,下級の同族だったり,人間だったり。弱点や敵の多い種族だからこそ,補う為に培われた風習だ。 残念ながらこの辺りに蝙蝠は少ないので,まず除外される。どうせ従わせるなら自分の好みで選びたいではないか。 次に同族。こちらも,2人きりで育ったキラに心当たりはまるでない。ましてやシンを従わせるなんてもっての他だ。キラはシンと共に生きていたいのだから。対等でない関係に,気兼ねのある関係に,何の意味があるのだ。冗談ではない。 そうなると,やはり人間。永く側に居て貰うのだから,それなりの人間でないと。とはいうものの……。 キラは深く溜め息を吐いた。 「どうした?何か悩みごとか?」 前の席に座るクラスメイトが,振り替えって話し掛けてきた。カガリ・ユラ・アスハ。太陽を連想させる金髪にオレンジ色の瞳,見掛け通り活発で男勝り,口は悪いけど思い遣りのある少女。キラが心を許す数少ない人間の1人だ。 ──言えないよ。 言える筈がない。彼女は,キラが吸血鬼だなんて知らないのだから。ごまかすように苦笑した。 「……キラ」 キラの名を呼び,カガリは参ったな,とでもいうように首を傾げた。心配そうにキラの顔を覗き込む。 「お前,最近元気ないぞ。言いたくないなら仕方ないけどな……。その,何だ。私はいつでも,お前の味方だからな。相談くらいなら,いつでも乗ってやるぞ」 そしてキラの肩をバシバシと力一杯叩く。 「ちょっ,痛いよカガリ」 そう抗議したものの,あはははと軽快に笑うだけでカガリは悪びれもせず腕に力を込めた。 「……ありがとう」 キラはお礼を言った。素直に嬉しかったから。心が晴れた訳ではないけれど,すぐ側に自分を想ってくれる存在がいてくれたという事実。カガリは微笑む。大輪の向日葵のような笑顔で。 ああ,眩しいな。 ──シン。 今は此処にいない,誰よりも焦がれる者の名を呼ぶ。 ──僕が1人前になったら,シンも僕を少しは認めてくれるだろうか。 ──そうしたら,もっと気にかけてくれる?一緒に居てくれる? 結局,その日その後どう過ごしたか記憶がない。上の空で受けたであろう授業は,かろうじてノートは取ってあるけれどそれがなかったら自分がちゃんと出席したのかさえも疑ってしまった所だ。 終業のチャイムで我に返ったキラは,急いで鞄に教科書を詰めると教室を飛び出した。 シンに会いたい。今から急いで行けば,彼の下校のタイミングに間に合うだろう。 教室を飛び出したキラを呼び止めようとして,間に合わなかった手をカガリは握り締める。溜め息をつくと,自分も帰り支度を整えた。
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