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結論から言うと、俺は勇者の試練とやらをクリアしてしまった。それはもうあっさりと。 どうしてこうなった。 右手に掴んだ神々しい剣を前にがくりと肩を落とす。 「お見事ですわ。さすが勇者様ですわね」 背後から拍手と共に凛と透き通るような声で賛辞を送ってくる人物へと振り返る。 黄金色の髪が軽やかに靡き、何もかも見透かす鮮やかな緑玉は大きく、まだあどけなさを残した顔立ちながら美しき造形を持つ彼女ーーこの国の王女エレンシアその人である。 この試練の間に入った時には既に其処に居て、全て試練の説明をしてくれたのも彼女だった。 と言っても試練の内容は実にシンプルなものであったのだ。 『祭壇に刺さっている聖剣を引き抜く事が出来れば、その者が選ばれし勇者である』と。 姫が示した先には、何だか難しそうな魔法陣が描かれた祭壇の中心に一本の剣が半分ほど地面に突き刺さっていた。 それがどうやら聖剣らしい。 刀身から柄まで真白なその剣は確かに聖剣と言える神秘的なオーラを纏っていた。 もしその話が本当ならば、そう簡単には抜けないだろうと思って軽い気持ちで手に掛けたのだが… 俺は抜いてしまった。 それはもう大根を抜くよりあっさりと拍子抜けしてしまうくらい簡単に。 実は勇者に仕立てあげるために簡単に抜ける細工がしてあったんじゃないかと疑ってしまったくらいだ。 だが手にした剣からは並々ならぬ力を感じる。それどころか、自分の中に暖かくも不思議な力が流れ込んでくるのすら感じてしまっている。 俺が戸惑いを隠せないで突っ立っていると、エレンシア姫の方から近づいてきた。 「今まさに勇者の力がシモン様の中に流れ込んでいることでしょう。その聖剣ミストルテインは選ばれし者だけが扱える剣であり、その者に光の守護神の力と加護を与えるのです」 「……ってことは、やっぱり俺は勇者に…」 「選ばれましたわ。観念下さいまし」 とても美しい笑顔ではっきり言われた。どうやら俺が乗り気でなかったこともバレバレだったようだ。 「大丈夫ですわ、シモン様」 微妙に顔を引きつらせていた俺の手にエレンシア姫の白い手がそっと重なる。 ただでさえ眩しい人物にいきなり接触されては思わず心臓が高鳴ってしまう。 「わたくしが神託を受けシモン様を選んだのです。そしてこうして聖剣を手にして下さいました。シモン様には勇者としての資質も力もあるのです。必ず魔王を倒す救世主となって下さるとわたくしは信じておりますの。ですから自信をお持ちになって」 そう言って花が咲く様な笑顔で言われてしまうと、そんな気がしてくるのだから男というのは実に単純な生き物だ。俺も例に違わずだったらしい。 「…分かりました。聖剣まで手にして今さらぐだぐだ言うつもりはありません。勇者としての使命、謹んで頂戴します」 覚悟を決めた言葉とは裏腹に、応えた笑みは少し情けなく眉を垂らしたものであったかもしれないが、それでも俺は素直に受け入れることにした。 どうせ逃げられないならやるしかない。しかも俺にしか出来ないことなら、尚更だ。 「それでこそ勇者様ですわ」 左手を包み込む様に握っていたエレンシア姫が嬉しそうに笑う。 魔王を倒す勇者なんてまだ実感が湧かないが、このお姫様の為になら頑張っても良いかもしれない。 そこで試練の入り口の間の扉が勢い良く開いた。 「シモン!試練はおわ……?」 試練の間には本人しか入れない為、扉の前で待機していたアイナが待ちきれずに入ってきたのだ。というか入ってきたら意味がないだろう。 だがアイナは俺とエレンシア姫の姿を見た途端に固まってしまう。 どうしたんだろうと首を傾げ、視線の先をゆっくり辿り自分たちが仲良く手を取り合っている其処へと終着する。 「わっ、すみません…!」 接触してきたのは王女様の方だが、何だか恥ずかしくなり俺は咄嗟に手を離して謝罪した。 「ふぅん、試練が上手くいくかずっと心配で待ってた幼馴染を放っておいて、こんな美少女とイチャイチャしてたわけね」 「は!?違うって、この人は…ぐえっ、首しまってる!!」 「いくら女の子にモテないからって、時と場合を考えなさいってあれほど言って…!」 「や、何の話っ、てか何でそんな怒ってんだよ、っごふ!?」 アイナの容赦ないコンボ攻撃に、弁解もそこそこに俺は悲鳴と共に床へ撃沈した。 そんな俺たちを前にしても、当のエレンシア姫は、あらあらと楽しそうに笑うばかりであった。 ー続ー
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