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ランドルフ様、ネオン嬢とエンカ後――『黒煌城(虚白のお茶会)』 「ふっ。愚問だな。逆に、どうしてこの私が『かつての在り処』に足を運ぶ事ができないと考えるのかね?ただ、今は私の居場所ではなく、諸君らの居場所だ。不快だったならば詫びよう。とは言え、本気で私の侵入を防ぎたいのであれば『我が盟友』か、四帝を最低二人以上連れて来ることを推奨しよう。尤も、君は私を取り除くのでなくお茶会に参加する事を受け容れたのだ。そのような現実的でない些末事は後に回し給え。ランドルフ・ヴァルトフォーゲル。ようこそ、お茶会へ。君には息抜きが必要だろう?」 幾ら戦時の臨戦態勢でないとはいえども外部から侵入する事は限りなく難しい警備態勢が敷かれている黒煌城。 そこにさも当然の如く誰にも感知されず、検知されず出現し、超然と、泰然とした態度で『お茶会』へと誘う虚白の少女。 葛籠有栖。白のアリス。 虚白の地以外では黒の親衛隊現隊長となった彼がまだ副隊長時代に青の国の神隠し事変にて遭遇した以来の邂逅だが、よりによってそれが彼にとって拠点となるこの城であるとは想像していなかったらしい。 四征軍を解散して尚世界最大の戦力を誇る黒の国の軍に属し、指揮する立場にある者にとって問題しかない状況であろうがそれは彼が悪いのではない。 今のこの黒の国で、否、この世界において己を止め得る存在は数少ない。 その例外的特異存在が集中するのがこの国だが、四帝達と帝らを統べし皇帝は今を生きる者達に託し基本は傍観や個人的都合で動いている以上は事実上己を止める事は不可能に等しい。 仮に、魔剣物語が彼らの側に与したとしても白の断章、白夢である以上は筋書きから逃れる術はない。 或いは――『白の少女』。ディオドーラ・シュラットガイスト。彼女が全てを思い出せば『物語(はなし)が変わる』可能性があるが。 そも、用件とはその彼女に関するものだ。 幸い、実力行使で己を排除しようとはせず、流石は黒の親衛隊隊長に就いただけはあって豪胆にも誘いに乗った彼は虚白に染まった廊下はいつしか廊下でなく目が痛くなるほどの真っ白な、天地さえ定かでない白き空間にぽつんと置かれた純白のクロスが敷かれた長テーブルと白い食器類が置かれたお茶会の席へと案内されることに。 どうぞ、と微笑を絶やす事なく着席を促してから自身も専用の席へと就けば、一人でに食器が動き出し、二人分のカップに鼻孔を擽る香味豊かな茶葉の香を孕む白煙が立ち昇り、カップには淹れたての紅茶が注がれて。 「まずはそうだな、今の君はあの時から昇格し、前任者『アディティア・アクラヴァート』にも認められ黒の親衛隊隊長となったのだったな。おめでとう。昇進祝いが遅れてすまないね。」 彼としてはわざわざ祝ってもらう理由などないだろうが、単なる社交辞令だと分かるであろう。 とはいえ、今の言葉には『アディティア・アクラヴァート』という『本来の前任者と入れ替わった存在』が上手く世界に、役者達の記憶と記録に不都合なく適応しているかどうかの確認も兼ねているのだがそこは役者の一人たる彼に語る必要はない。 しかし。この姿になってから、白のアリスという存在に沿って始まったお茶会の習慣だが中々どうして、■■■■は元来そういった趣味を持たなかった事もあり慣れるのに時間がかかったものだ。認識の齟齬を埋めるのは決して簡単ではない。それが例え、このような取るに足らない一行事ですらも。 カップを品良く食指を引っ掛け持ち上げてから口元に運び、薄い唇を湿らせ一口含みながら考える。 ランドルフ・ヴァルトフォーゲル。 黒の本に書かれた役者の一人。 彼の担える役割はあの日会った時以降より大きくなった。 それ故に、役者が舞台外、奈落へと落ちる事がないように慎重に事を運ばねばならない。 思惑通りに進めば、彼こそが虚白(しろ)の少女(ありす)が求める『物語の結末』に繋がる役割を担える役者候補なのだから。 テーブルに向かい合って用件は何なのか、真逆本当に昇進祝いなんかしに来たわけではないだろうと此方の動向を窺う彼を赫き瞳で捉えれば、そう焦らずに君も一服すると良い、と言外に含みを持たせまた一口。 決して彼もペースを握らされまい、乱されまいとするであろうがこういった技能に関しては■■■■に起因する知識と技能のお陰で苦労することはない。 「そう性急になることもなかろうに。上に立つ者に余裕が無ければ下の者も付いていくのに難儀するだろうよ。……とはいえ、お茶の席に話しは付き物だ。さて、君も知っているであろう。そして、今し方それにより生じたひと悶着を解決、ああいや、解決と呼ぶには少々後味の悪い結果となったが一先ず問題を先送りにした出来事があったね?そうだ、ディオドーラ・シュラットガイスト。彼女が『白夢』である。或いは、『白夢であった』存在という事は知っているだろう。黄金の魔導王、黄金狂のルシアン=シュトロハイムの手によってややこしい事態に陥っているとも。」 どうやら、彼もそこまで驚きはないらしい。 それもそうだ。 ここまで露骨なタイミングで己が現れたのだ。 ならば『白の少女絡み』であるという事は想像ができて然り。 彼が聞きたいのはその先。 『何故わざわざ虚白の少女が干渉してきたのか』、その理由であろう。 「ふむ。そんなことは分かっているとでも言いたげだね。では、私が言いたい事は分かるかな?……ランドルフ・ヴァルトフォーゲル。君がこの言葉をどう受け取るかは君次第だが、敢えて云っておこうと思ってね。『ディオドーラ・シュラットガイストの罪を暴く事なかれ』。と。記憶が無い事も、それ故に真相を君や彼女、ネオン・リリーと言ったか。彼女やクリェームリ・ウェストロスにも告げる事ができない事も、そのままにしておけば良い。ルシアン=シュトロハイムの野望は潰えている。彼女の悪意の残光によって君達は悩まされているようだが、その程度で済んでいると思っておくほうが賢明だ。下手に真実を探ろうとすれば、誰も幸福にならない未来が待ち構える事になる。時が解決してくれる、そう信じると良い。」 ――こう云っておけば、聡い彼だ。『どちらに転ぼうとも己にとって理想の動きをしてくれるであろう』。 ディオドーラ・シュラットガイスト。その偽りの名が定める通り、『燃え尽きた白灰』のままでいて貰わねばならない。 あくまでも、ディオドーラ・シュラットガイストという少女の物語の枠に収まって貰わねばならないのだから。 そして、また一つ彼が『この世界の欺瞞と虚構』に気づいてくれれば。 あとは幾つか彼からの質問にも問題が無い範疇でも受け答えをして、お茶会は閉会。 ……ネオン・リリーにも接触しておきたかったが、彼女は本当に面倒な事に先に手を打ったらしい。今は、ランドルフ・ヴァルトフォーゲルという役者、黒の駒が役割を果たしてくれる事を信じよう。 期待しているよ。 どうか、見事演じ切ってくれ給え。
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