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<font color= #f9a1d0>「お嬢様、私はそろそろお暇させていただきますが」 「え、っていうかいたの、アグリ」 「はい」 「用事は?」 「この後にございます」 「ふうん、そうなの」 不意にネオンの背後から話し掛けてきたお馴染みの制服に身を包んだお馴染みの家政婦は、無表情のまま己が仕える主人の一人娘に一礼をした。 ──場所は銀の国、銀礼祭と呼ばれる祭の特設会場。ステージでは、希望者による一芸披露がなされている最中だ。ちょうど先程一芸を終えたネオンは、怠そうに首を回し白い息を吐いた。 そもそも目の前の家政婦は本日は非番である。銀の国までの道中は確かに一緒にいたが、着いてからは今まで別行動していた。だから、この場所にいるとは思わなかったし、オフである彼女がわざわざ声を掛けてくるとも思わなかった。 「ま、今日は仕事じゃないんだし、好きに過ごしなよ」 「ですが、21時までは時給が発生しておりますので」 「あ、そう……」 ネオンは呆れた様子で肩を竦めた。 元々非番だった彼女は、この銀の国で休暇を過ごす予定だったらしい。それを珍しくも他の従業員から耳にしたネオンは、自分も観光する!と思い立ち黒の国を発つ彼女に半ば無理矢理着いてきていたのだが……世話代としてちゃっかり時給がついていたのか。しかも多めに。まぁ確かに、それなら道中に話し相手になってくれたのも、今もずっと制服姿でいることにも納得だ。彼女は普段は、どんなに訊ねても勤務中ですらオフの日の話はしてくれない。オフの日に一緒に過ごしてくれる事などあり得ないのだから。 「で、見てた?わたしのステージは」 「はい」 「どうだった?」 「はい、可愛らしかったです」 相変わらず特に感情の窺えぬアグリヌスの言葉、しかしそんな冷たい反応に慣れているネオンはそれでも誇らし気に笑ってみせた。 「もとの素材がいいからね」 「左様でございますね」 「ダンスも歌も昔ちょっと習ってたし〜」 「優勝出来るかもしれませんね」 そんな事思ってもない癖に。 とネオンは薄っすらと笑みを浮かべたまま彼女を横目で見てから、ステージへと目を向けた。歌と踊りのオーディションであるならまだしも(と、見目に自信のある本人は思っている)、この会場にはあらゆる面で秀でた人物が集っている。今舞台に立っている人物は変わった楽器の演奏を披露しているし、先程少し話した少女は一瞬でアイスを作って見せていた。──そう言えば、とネオンは口を開いた。 「きみも悪戯された?コッチの妖精さんに」 妖精。此方へ来てから随分と世話になった存在である。可愛らしい見た目をしているものの、寄ってたかって悪戯を仕掛けてくる……悪質な存在、と認識しているが、先述の瞬間アイス作りを披露した少女にとっては違うらしかった。食べたいくらい可愛い、と言っていたのはまだ理解できる──但し皿に寝かせていたのは悪趣味だと思う──誰かが置いてくれたと言ってはいたが──が、そんな彼女に妖精は寄り付かず、それどころか姿すら消すと言う。 悪戯妖精は見たところ自分だけではなく、たくさんのひとびとに被害を与えていると見た。ヒミカ、と名乗った黒の国から来た彼女が少数派なのは間違いないと思うのだが、そんな人物がいるのならこの冷酷な家政婦アグリヌスも妖精と戯れる様な印象はない。果たして悪戯されたのか否か、ちょっとした話題のつもりで訊ねてみると、アグリヌスは顔色一つ変えずに短く答えた。 「はい」 「え、されたの?」 「はい」 相変わらずこの家政婦とは会話が続かない。 やや苛つきながら急かす様に具体的な内容を問い掛けてみると、「服を引っ張られ、歩行中靴を取られました」との事だ。しょうもないがこの家政婦、なかなか本格的に悪戯されている。 ネオンは、へーっと声をあげて驚きを顕にした。 彼女の事だからきっとそんな悪戯にも動じてはいなかったのだろうが、その場面は見てみたかったような。しかしそれよりも、悪戯妖精が全く近寄らないらしいヒミカという少女について俄然気になってきた。見たところ普通の可愛らしい料理人だったが、本当は恐ろしい本性を持っているのだろうか。 「っていうか、妖精っておいしいのかなぁ」 殆ど自然に出た疑問だった。 「頂戴したことはありませんが、お嬢様が召し上がりたいのでしたらセスに申し付けておきます」 「え。いいよいいよ、食べた事ないんだったらいい」 「………畏まりました」 「なにいまの間」 「では、大変恐縮ですが御先に失礼致します」 「はいはい、おつかれ」 深々とした礼を受け軽く片手をひらつかせる。 去る背を律儀に最後まで見送っている己に気付くと、ネオンは誤魔化す様に一人かぶりを振った。 「どこ行って何しててもどうでもいい話だし………」 言い聞かせる様な呟きは喧騒に消えた。</font> ──────── 銀の国、銀礼祭特設会場にてヒミカ様とエンカ。 ずっと前に書いててとっくに投稿済みの気でいました……( ˘ω˘ ;)見直しして慌ててひっそり投稿。 ヒミカ様……仲良くなりたかったものです……
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