[
携帯モード]
[
URL送信]
メッセージの編集
お名前
メールアドレス
※変更する場合のみ入力して下さい
ホームページ
本文
姉が妊娠したときのことを僕は忘れられない。昔から軋んだ関係ではあったのだけれど、目の前で崩れてゆく日々はみんなを泣きたい顔にさせた/ 父は毎晩酒をあおり、怒鳴り 姉は泣いて叫ぶ。 誰かの名前を呼んでいるのだ。 僕は母のことを考えていた/母が涙を流したのは、あのときがはじめてかもしれない。 雪をよけてゆく手をはやめると、だんだん黒い土が見えてくる。そして、手に何か固いとがったものが触れるのだ。それは、春だ。母にとっても僕にとっても/ 姉は子供を産んだ。 ちょうどこんな時期だった。 それから父は、 姉とあまり言葉を交さない。 それでも父は、 姉の子供に愛情を注ぐ/どっちみちかなしいのだ。だから母は笑うのだろう/時間は流れるもので、同じ時間を刻んだりはしない。 僕は母のところに急ぎ足で向かう/ 「今年も水仙の芽が出たよ」 そして、母は笑った/雪が溶け始める季節。
設定パスワード
編集する
削除する
無料HPエムペ!