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そして、母は笑った/雪が溶け始める季節。 僕は毎年そうするように、この時期になると庭の決まった位置を確かめる。自分の部屋の窓の下にある花壇/ そこから左を見ると 赤い花を咲かせる 紫陽花が植えられている。 「死体が埋まってるのよ」 と言った姉の言葉を 僕は信じていた。 その頃も怖くはなかったけれど 今思うとベタだな、なんて/姉のセンスを少し疑う。 僕は玄関から外に出ることはあまりない。物心ついた頃から、窓/ いつものように僕は僕の玄関で、きつく結ばれたひもをとく。元は白かったはずのスニーカーに、ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう足を詰め込んで/ 「もっと小さい靴にしなさい」 と母は言うけれど、 大きい方が絶対いいと 僕はいつだって思う。 僕の父は足がとても大きい/両足がスニーカーに入ると、再びひもをきつく結びなおして窓の外を見る。 まぶしいなあ、今日はもしかしたら出ているかもしれない。 飛ぶとき気を付けなきゃいけないことは、花壇に着地してしまうのを防ぐことだ。前に一度失敗したとき、叱られたのがかなしかったのではない/ かなしみは常に自分に 向けられていて、また、 全く逆をも向いている。 笑っても泣いてもどっちみち、 きっとかなしいのだ/ただ母が微笑むだけで良い。 花壇を飛び越えるフォームをほめてくれたのはいつだったろう/姉も笑っていた頃だったろうか。 花壇の前にしゃがみこむ/近くで犬が吠えていて、しかしまあそれを別段うるさいとも思わない。父が買ってきてた黒く毛なみの良いシェパードは息が臭く、そして、なかなか僕になつかない/ それでいいとは思う。 去年の正月に死んでしまった犬を 僕はもう一度飼いたい。 庭を出て坂をくだったところにある、 大きな栗の木の下。 そこにいるのは わかっているのだけれど、 いや、もういないことも わかっているのだけれど。 あの犬が、僕は好きだった/その後に父がシェパードを買って嫌な気持ちになったのは僕だけだったのだろうか/栗の木に赤い花が咲いたら少しは笑えるかもしれない。 花壇にかぶった溶けかけの雪をよける作業は、素手で行う/たいてい外は暖かい。ひんやりした雪をやんわりつかんで脇によけるその作業を僕は結構好んでいたりする。父も姉もやったことはないであろう作業を、僕は母のために行うのだ/ (レスへ続く)
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