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仕事が終わったら顔を出すと言っていたノミ蟲が俺の家にやってきたのは、日付が変わるか、変わらないかという時間の事だった。 疲れきった表情で玄関に座り込む。 よく見れば、服の襟が伸びている。それ以外にも頬の引っかき傷など、誰かと争ったような跡もそこかしこに見られた。 「…何があった」 自然、声も低くなってしまう。 コイツは世界に有害なノミ蟲だが、それでも俺のノミ蟲なのだ。 俺以外が潰そうとするのを、黙って見ているわけにはいかない。 「ーーシズちゃん」 絞り出すように紡がれた声は、わずかな物音で消え去ってしまいそうな程、か細かった。 「おい、大丈夫か…?」 「シズちゃん、大切な話があるんだ…今、何時?」 「あ?…ああ。丁度日が変わった所だ」 その言葉と同時に、臨也が手にしていた袋を地面に投げつけた。 悔しそうに唇を噛み締める仕草が、痛々しい。 「…何があった」 コイツがここまで感情のままに悔しがるのも珍しい。 傷の事といい、聞きたい事が沢山ある。 臨也は叩きつけた袋をゆっくりと拾い上げ、しゃがみ込んだ体制のまま俺へと差し出してきた。受け取って、中身を確認すると、なにやら黒い布地が見えた。 「………ネコミミ?」 「そうだよ。2月22日といったら猫の日!世間一般ーーああ、主に二次元でのイベントが主流だけど、実社会でも一部のペットショップで猫用品が安くなったり、ちゃんと影響力はあるんだよ?まぁ、そんな事は今どうでもいいんだ。大切なのは、猫の日ならば猫の格好をしても責められず、むしろ歓迎されるという素晴らしい風潮の事なんだ。俺は考えた。いかにして猫の日にシズちゃんに猫耳、そして尻尾をつけて特殊なプレイが楽しめるかをね。今君が手にしているのは確かに猫ミミ、そして猫尻尾だ。それは紛れもない事実だけれど、それには本来の猫が有する柔らかな毛並みも、細やかに動かす為の神経もない。そんなものを付けて、果たしてそれは猫の日を満喫していると言えるのだろうか?俺は認められないよ。ごめん、シズちゃんが偽物でも満足出来るタイプだったら本当に悪いと思うけど、これだけは認められない。あの機敏な動きがあってこその猫だろう?触れると、少し嫌そうに耳をパシパシするあの素晴らしさ!猫ラァブ!今日ばっかりは俺は猫が好きだ、愛してる!だからこそ猫も、俺を愛するべきだよねぇ!」 「…………新羅のとこ行くか?」 「そう、新羅!新羅だよシズちゃん!」 良かれと思って出した名前は、またもや臨也の逆鱗に触れるものだったらしい。 つーか、コイツ飲んでねぇか?酒臭く…ねぇな。素でこれか。 「偽物の猫グッツで満足出来なかった俺は、新羅の所に行ったんだ。人が猫になる薬はないかってね」 「…いや、ねぇよ」 「あったんだよ!!」 バァン!と臨也が床を叩く。 痛かったみたいで、後ろに回した手をこっそり摩っているのが見えた。 「それがあのヤブ医者なんて言ったと思う?”これはセルティに使う分だから駄目”即断だよ?10年来の友達より、恋人を選んだんだ!大体、首が無いんだから耳が生えたかなんて分からないのに!元々あのヘルメット、耳あるのに!!」 「…………」 素面で酔っ払いの面倒をみるのが精神的に堪えるように。 まともな精神で、まともじゃない理屈を長々喋るヤツの相手は疲れる。すごく、疲れる。 今だに床を叩きながら(今度は痛くないように加減しているようだ)嘆く臨也の頭に、落ちていた猫ミミをそっとつけてみる。人なら救いようがない態度も、猫がやってると思えばちょっと可愛い気がしなくもない。ちょっとだけ。 尻尾もつけてみようと思ったのだが、付け方がわからない。 てゆーか、これ服着てたら無理なんじゃねぇかな。 「…ちょっと、シズちゃん何してんの?」 「猫の日」 せっかく用意してくれたんだから、楽しまないとなぁ? 笑ってみせれば、底に隠した(つもりの)イラつきを感じとった臨也の顔がピクリとこおばる。 「…お、れ……ちょっと、用事思い出し……」 「まぁ、ゆっくりしてけよ。なぁ、臨也くんよぉ?」 面倒なのでコートを引きちぎると、非難めいた声が聞こえてくる。聞こえないフリをしながら服を剥いていくと、思っていたよりも早く、抵抗が止まった。 「……せめて、ベッドがいい」 「猫はそんな上品な事しねぇだろ」 「ーーー最悪、なんだけど…!」 背けられた顔が面白くなくて、 唇の端にキスすると、不満そうな顔がこちらを向く。 「……そこ、ヤダ」 「はいはい」 要望通り、舌を絡ませれば。 「………ん、」 ご丁寧に自分の毛並みに似合う耳と尻尾を持参した猫は、満足そうに目を細めた。 end 猫ミミプレイをしたい、なんて口が裂けても言えないのです。
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