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寒明けの季節、時刻は酉。 薄紅色の花弁が舞い散る丘で二人の男が対峙していた。共に若くはないが老いているようにも見えない。血気盛んな若者にも、長い年月を経て落ち着いた老人にも見えるのだ。 男達はよく似ていた。黒い短髪の下の精悍な顔、今では日常で着ることが珍しくなった着物姿もそうであるが、何より身に纏う気が酷似している。強い覚悟が全身から滲み出ている。 「いざ」 二人の内、幾分目尻が下がった男の声をかわぎりに緊迫が強まった。互いに腰の業物に手をかけ、抜き放つ。月光を浴びて煌めく二振りの鈍色。それを構える男達の顔までもが鋭さを増す。 きっかけは一陣の風だった。一際強く吹いた風が花弁を巻き込み、竜巻のように渦を作った瞬間に二人が動いた。 月が立会人の勝負は半刻ほど続いた。両者互角で決着は着かず、金属の打ち合う音の代わりに荒い息が場を支配した時。 「お父さん達、またやってるの!?」 「いい加減やめろよ。親父」 走ってきた少女と少年が口々に言った。 「危ないから真剣で勝負はしないでって言ったでしょ!」 「いくら二人が師範だからってさ、心配するだろーが」 「第一、お父さん達が怪我したら道場はどうするつもりなのよ」 「せめて竹刀でやれよ。その剣、演舞用に許可取ってんだろ?」 二人の男は顔を見合わせた。息子や娘に心配されるのは嬉しいが、と態度が言っている。 「わかってる。だが、お前達。いつも言ってるだろう? 侍や真剣は漢のロマンだ。どう言われようと止めるつもりはないぞ」 「そうだ。それに竹刀は毎日道場で使っているからな。たまには真剣を交えたくもなる。これが本当の真剣勝負、とか言ってみる」 心底愉快そうに二人の男が笑う。少女と少年は呆れてはいるが、父親達があまりに楽しそうなので苦笑するしかなかった。 季節は移り、寒入り。 真白な立花の降る丘で二人の男が対峙していた。 月を立会人にして、また鈍色を交えるのだろう。
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