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(きれい、だな) 巨大な窓から差し込む月光を反射し、透き通り、氷はきらきらと光った。 十字架の根元には白薔薇の血が滴り落ちて溜まっている。 何気なくそれをすくい取って舐めた瞬間、彼の顔に疑惑の色が浮かんだ。 「な、なんで…、どうして」 剣を取り落とし、血がついたまま頭を抱え、煌夜はその場にくずおれた。 「どうして、僕と同じにおい、どうして、同じ、味…!?」 「私、の子、だから、よ」 「え…。で、でも、あなた、は」 「そうよ。全員食べる、つもり、だった」 でも一人だけ盗られたの、という言葉に、煌夜はハッと顔を上げる。 「まさか、それが」 「ふふ……。あなたよ、父親によく似た、愛しい子」 煌夜の理性の糸が、その一言で切れた。 魔力で制御されていた茨がスッと消え、白薔薇が床にどしゃりと音を立てて落ちる。 「他の子達も、もっと大きく育てても良かったかもしれないわね…」 落ちた衝撃で首が折れたのだろうか、おかしな方向を向いたまま、白薔薇が呟いた。 「私の血を、あなたの血にしなさい、煌夜」 「でも、共食いは禁忌で」 「最期にあなたに会えて、最期があなたで、ほんとうに良かった」 彼の言葉を遮る、その言葉が引き金だった。 煌夜の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。 「かあ、さま…ッ!」 「立派に咲く、すてきな薔薇になりなさいな」 無言で何度もうなずき、天頂に上がった月に向かって彼は声にならない叫びを上げる。 「最後の一滴まで愛してるわ」 かすれた声でそういうと、彼女の身体から力が抜けた。仮死状態になったのだ。 煌夜は白薔薇の身体を抱き上げると、白い首筋に噛み付いた。 目から透明の涙がこぼれ、口の端から白薔薇の血がこぼれる。 彼は飲んだ。飲み続けた。白薔薇の身体が枯れ果てるほどに。 最後の一滴を飲み下す頃には、涙も止まっていた。 彼は剣で母親の首を切り落とし、用意してきた銀の杭を心臓に打ち込む作業を始めた。 何事もなかったかのような表情で。 一連の作業が終わる頃には、夜明けだった。 最後に日光を浴びせ、その身体が完全に灰になるのを見届けながら、彼は呟く。 「おやすみなさい、母様」
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