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番外編 虚像の間の幻 * 夜もすっかり更けた時幻党。廊下の窓から弱く差し込む月明かりにカツン、カツンと靴音を響かせるその足元を何処からともなく湧き出てきた闇が音も無く絡みつく。途端に訪れる無音の世界。視界を覆った漆黒の闇の奥、一つの如何にも重厚そうな扉がその姿を顕(あらわ)にした──。 扉を数回ノックすると静まり返った空間にそれが反響する。…留守か、そう思ったのも束の間。ガチャン、と重い音を立てて“難解”と呼ばれている筈のその結界はいとも容易く解除され、古めかしい軋みを上げながらも扉はゆっくりと優人を迎え入れんとばかりに開かれた。──“虚像の間”は、中へと優人を無言で誘(いざな)う。 「……イノセさん?」 中からの返答は無い。 (やっぱり、留守か……) 「お邪魔します───」 優人は扉を潜(くぐ)り虚像の間へと足を踏み入れた。 何処までも広がる漆黒の闇をポツリ、ポツリと灯(とも)り出したキャンドルの灯(あか)りが辺りを僅かに照らし出す。いつものソファーとテーブルが暗闇の中、ポッカリと浮かび上がる。部屋の片隅にてキャンドルの光を静かに反射させている大きな姿見。空間の奥には鎖の雁字搦めな扉がこちらも音もなく腰を据えているが、その全貌まではハッキリとしない。 「………。ミラさん…? が、入れてくださったんですか?」 優人は姿見の方へとソッと歩みを進めた。 「イノセさんは……また、出掛けちゃってるんでしょうか………」 無機質に沈黙を守るミラの前へと足を止めてミラへ軽く触れてはみるが、やはり無言は貫かれたままだ。 (…魔物も。夜は眠りに就いたりするのかな………) その時。物思いへ耽る優人の耳に微かな足音が扉の向こう、近づいてくるのが聞こえた。 「──!、」 「フリージア…??」 虚像の間の僅かに開いたままになっていた扉の隙間からヒョコッと躊躇いがちに顔を覗かせたフリージアの姿に優人も、またフリージアも驚いた様子で互いに一瞬、息を飲んだ。 「優人? ──あれ…、いつの間に私またこんな所、来ちゃったんだろう……??」 戸惑った様子を見せつつも、そこを潜ったフリージアの背後にて、虚像の間の扉が今度こそ重い音をゆっくりと立てて完全に閉じられる。 「…イノセさん、出掛けちゃって──。優人を探してたんだけど優人、部屋に居なかったから。どうしようかなぁって、部屋に戻ろうか迷いながら廊下を歩いてた筈だったんだけど………」 互いに歩み寄る二人の元で、傍らのテーブル上のキャンドル達が僅かに明るさを増した気がした。 「──掛けよっか。何だか、そうしろって言われてる気がする…」 「うん……」 「イノセさんはいつも今の時間帯って出掛けてるの?」 「んー、割とね。いつもは私は寝ちゃうんだけど、今日は寝る前に優人と少しだけお話ししたいなって思って。それで優人を探してたの」 「…ふーん。相変わらず白羅さん探しでもしてるのかな、イノセさん……」 「ねぇ、優人〜! 聞いてよ! イノセさんったら、いつも酷いんだよ? 今日だってもっと優人と私、お話ししたかったのにさぁ───!!」 テーブル上のガラス皿から一粒キャンディーを頬張って、フリージアは優人の方を向く。自然な流れで両手を掴まれ、指を絡められて組まれて。「こりゃ、そう簡単には逃してくれそうにないな…」と優人は腹を括って苦笑を零した。
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