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──コンコンッ 『姪〜、ニュート〜ン、入るよー?』 時幻党大浴場、脱衣所。 『あ。叔父! タタリンセンセも』 『せ、先生…っ!?』 ──ガタタッ、…… 祟場の姿に、思わず 優人は身じろいだ。 『───座ってろ、優人。説教は後だ』 『は、はいっ…』 祟場は静かに優人を制す。 優人は何処かばつが悪そうに ソワソワと視線を泳がせた。 『姪。ニュートンの様子はどうだい?』 『どうもこうも…、この有り様デス────』 ──バサッ…… 椅子へと座らせ 優人の髪を乾かして やっていた黒衣が そのタオルを 退けると──…。 『─!』 祟場は一瞬、息を飲む。 タオルの下から露わとなった 優人の濡れた黒髪は、その長さが 肩下少し先まで達していた。 『う〜ん。まぁ、こんなもんか…。きっと、Kノビールの効果が強めに出たんだね』 『Kノビール?』 『そ。僕の開発した育毛促進剤さ』 『……、それって…劇薬なんですか?』 『まぁね。まだ、試作品の段階だったんだけれど……効果が極めて著しくてね。危険だから封印した』 『……………』 劇薬の意外な正体へ 言葉を無くす祟場を後目に 真木は優人の元へと歩み寄る。 『ニュートン、気分はどう? 大丈夫かい?』 『あ、平気です。ご心配、ご迷惑をお掛けしまして……』 優人は慌てて真木へと頭を下げ それから、背後の黒衣へも頭を下げた。 『…………っ、』 祟場は、複雑そうな 表情を浮かべると 真木を見やる。 『これが、その…劇薬の影響ですか?』 『そ。まぁ、間違いないだろうね』 『……これが影響の、全てですか…?』 『それは、まだ判らないけど…。うーん。今の所はねぇ〜……』 『………はぁ〜』 祟場は深く溜め息を吐くと ガックリと項垂れて 片手で顔を覆った──。 『……………………、』 祟場は此処へ至るまでの 一連の流れを暫し、振り返る。 書斎にて調べ物をしていた所へ 優人の式神の白蝙蝠が知らせに来た。 “劇薬”の言葉に火傷、失明、後遺症… 実に様々な最悪のケースを覚悟させられた。 一体、どんな思いで此処まで来たと思う? なのに。人を散々不安にさせといて…… 劇薬の正体が単なる“育毛促進剤”? 挙げ句。被った被害が、ほんの少し 髪が伸びただけって──、阿呆か。 段々とそれに腹すら、立って来て 祟場は静かにフルフルと怒りへ震えた。 (────ふざけてんのかぁ〜?? お前らっ……) ──ゴゴゴゴゴッ……… 『おや。何やら、さっきから殺気が…なんちゃって──』 祟場に無言で押し退けられ 真木はおっとっと、と その場を譲った。 『oh…、タタリンが、まるで阿修羅のようだ……』 直後、黒衣の背後へ回り込み その背へと縋るとそこから ソッと祟場の様子を窺う。 『──おい、優人…』 『は、はいっ…?!』 『…全く、お前という奴は……何度言ったら判るんだ? ──毎回、毎回…毎回毎回毎回っ……』 『………っ、セン、セ…??』 (──えっ。何かすっごく、怒ってる…?? さっきまで割と普通だったのに、やっぱり本当は、すっっごく怒ってる……??) ユラリ…、と立ち塞がった 祟場の影掛かった姿へ優人は ガクブルと冷や汗を垂らす。 やがて、固まるその身へ 祟場の両腕が伸びた。 『………っ!?、』 ビクリと反射的に目を閉じ 優人はその身を竦める。 『…………、』 しかし、そこを意と反し 祟場の大きな手に髪を梳かれ そのまま腰へと抱き止められた。 『…?、えっ??』 優人はキョトンとし、瞬くが 祟場から覚悟していたお咎めが なかなか降って来ないのと 益々強く頭を掻き抱かれ 恐る恐る祟場の事を仰ぎ見る。 『…!』 俯いた祟場の眼鏡越しの瞳は 心痛の念を宿し、ジッと 何処か一点を見据えており 慌てて優人は目線を戻した。 (せ、先生が、何か思い詰めてる…! えっ、俺…、何かした……??) 優人はぐ〜るぐると 思い当たる節を探した。 (───えっ、あれ……えっと…??) 焦って考えるが思い付かない。 焦っているせいか思い付かない。 頭を充分過ぎる程に使って 今度は、優人の目の方が ぐ〜るぐると回り出す。 『…優人』 静かにポツリと名を呼ばれ、 優人がハッと祟場を 再び仰ぎ見ると 此方を見下ろしていた祟場が ゆっくりと一つ瞬く。 優人は『はい?』と 言葉を返してから、 切れ長な祟場の 意味深な瞳へ 真っ直ぐ正面から 射抜かれたのと同時 途端、一瞬にして ─カァ〜ッ…、と。 訳もなく頬を染めた。 ドキリ、としたのだ。 息が止まり掛ける。 そこへ──… ──グッ、…… 『…っ、』 祟場の手が一際、深く 優人の髪を梳いた… かと思った次の瞬間──。 完全に油断し切っていた所へ 祟場の手が優人の耳へと触れた。 ──ギリギリギリギリッ…… 『─いっ!?、痛い痛い痛い痛い痛いっ…!!』 優人は完全に不意を衝かれて いきなり走った両耳への激痛に 涙をちょちょ切らせて悲鳴を上げた。 『──バ〜カ。油断してんじゃないよ……つか。何、期待してんだ?』 『何するんですか!? 急に!!』 『ん? お前、ホントに耳、付いてんのかなぁ〜とか思ってな。(前から髪で見えないし…)』 『付いてますよ! 当たり前でしょ!?』 『…じゃあ。普段からそんなに聞き分けが悪いのは、ど・う・し・て・だ──??』 ──グッ、ギ、ギィ〜…… 『そ、そそっ、そんな事もないでしょ!? て、ゆーかっ! いっ、いい加減、離して下さいよっ!! ……ほ、ほ、ホントに痛いですってばぁあああっっ!!!?』 『…………、』 『……せ、センセェ…!!』 ──パッ 『〜〜〜〜〜っ!!、』 ←悶絶 『………てか、今さ。何か一瞬、赤くなんなかったか、お前? ──何、勘違いしてんだ、バカ』 『は、恥ずかしい事、言わないで下さいよ…!! わ、わ、悪かったですねっ!! 先生の顔が無駄にいいのが悪いんですっ!! ……て。何、言わせるんですか! もうっ──!!』 『おーおー、顔も耳も真っ赤だな』 『耳は、センセが、引っ張ったからですよっ…!!』 『──俺に見惚れる程の余裕があるって訳だな?、要は──。女子か、お前…』 『先生が言わせたんでしょっ…?!』 『…あ。でも、ま─。見れば見るだけ女の子みたいね、今のお前』 『は? はい…!?』 『よし、来い。俺が切ってやる───』 『えぇ?! …なっ、ちょ……待って下さいぃい…!! い、嫌な予感しかしないっ──!!』 祟場へ、ガッシリ腕を掴まれ 強制連行されそうになって 優人は慌てて必死の抵抗をする。 『け、結構ですっ! 髪なら黒衣さん辺りに切って貰いますので…!』 『──そう、遠慮するなよ。俺の召喚したカリスマ風神の腕に任せれば、一瞬にしてサッパリだ。』 『それっ、バッサリですよ! バッサリ…! く、首ごと無くなります!! どんだけ、豪快な散髪ですかっ!!』 『…チッ、世話の焼ける奴だな。本っ当に───』 『し、舌打ちしないで下さいよ!! 俺だって命ぐらい惜しいです……!!』 何処まで本気か判らない 祟場の言葉へ、優人は 必死に抗いを見せる。 優人は思う。優しい先生なんて 何を考えてるのか判らないし 逆に怖いから、要らない…! どんなに怖くて、厳しくたって いつも通りクールにビシッと 叱ってくれる先生の方が やっぱりいい!、と。 『……ったく。元はというとお前が悪いんだぞ?、優人。大体、お前。真木の部屋なんかに何しに行ったんだ?』 『!、あっ、それなら。真木さんがこの前、俺にくれたナビぷんすかのメンテナンスをしてくれるっていうので…』 『ほう。で? それが何で、倉庫に忍び込むに至ったんだ』 『忍び込…? ち、違いますよ! そんなんじゃ……だ、だって、開いてたから──!』 『……相っ変わらず、お前は行動が軽率だな。何でいつも、そう軽はずみなんだ…』 『ちょ、ちょっとした新種のプンスカ亜種への探求心からじゃないですか! 真木さんの部屋は、いつでも不思議生物に溢れてるんですよ! これを探険、調査せずに居られるってんですかっ!』 『んな事、知らんわっ!! 全く、お前って奴は────』 そう吐いて祟場は優人の 伸びてしまった猫っ毛な頭を わっしゃわっしゃと手荒に撫で回す。 『フワフワ、フワフワ、フワフワと…。正にお前の性格そのものだな、この頭は──』 『ぎゃー!、痛い痛い、痛いですって! 止めて下さいよ、センセェ…!!』 『だったら。やっぱり、切ろうな。バッサリと?』 『…ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……そ、それだけは、ごめんなさいっ──!!』 怒ってるんだか呆れてるんだか… 真意の読めない祟り場の声と 優人の泣き声だけが 脱衣所へと響く。 『───も〜、タタリンったら。素直に「心配した」って言えばいいのに……』 『タタリンセンセって所謂、ツンデレさんなんですかねぇ〜』 『普段、冷静なのに時折、壊れるしねぇ〜』 『ですねぇ〜』 真木と黒衣は部屋の片隅で 二人の姿を眺める。 ※ずっと居た 『よし、判った。こうしよう。召喚術は、使わない。お前のそのモフモフ頭は、俺がこの手で直々に丸刈りにしてやる。…はい、解決! ──来い。』 『ええぇえぇぇっ!? そっ、それはそれで、ちょっと…!! か、勘弁して下さいよ、先生っ!! い、嫌ですってばぁ!! ──せ、センセ、お願い……ゆ、許してぇ〜!!』 『問答無用!』 『ギャースッ!!』 悲痛な声を上げる優人など これっぽっちも気にも止めず 今日の祟場は全くを以て 容赦がなかった───。 『HAHAHA、仲良しさんだねぇ〜』 『そうですねぇ〜』 ズルズルと引き摺られて行く 優人を遠目にのほほんと 真木と黒衣は風呂上がりの コーヒー牛乳を乾杯し、啜った。 ──突如として優人を見舞ったカオス。 しかし、これはまだ氷山のほんの 一角にしか過ぎなかった。 そんな事を優人は、この時 まだ、知る由もない────。
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