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はす子様から頂き物!!「とある小さな生き物の話」
なかなかPCが使えなくて(私のPCはティウンしたので)、かなり掲載するのが遅くなってしまった
はす子様にリクエストしたこの小説!!!!
犬クイック可愛いよ犬クイック!!!←
はす子様本当にありがとうございました!!!

そして、そんな素敵な小説は↓から!











何かがおかしい、とオレは思った。
どこか、機体の様子がいつもと違うような気がしたのだ。
朝の眩い光を受けて、思わずオレは目を覆った―――その、腕が。

何だか茶色い毛むくじゃらなもので覆われていた。

「………わ、わふっ!?」
びっくりして思わず声を上げてみたら、それは明らかにオレの声ではなく、まるで何かの獣のような。
何が起こったのかさっぱり分からないままに、オレは改めて手をまじまじと見つめ―――そして、ありえない物がその手にくっついているのが分かった。
ピンク色をした、妙に柔らかそうなそれ―――つついてみれば、妙に生暖かくて柔らかかった。
これは何だろうと頭の中で色々考えてみた時、ふといつか見た猫の脚についていたものに似ていることに気が付いた。
そうだ、これは、確か。
「……わふ…ふぅ…」
オレとしては『肉球』と言ったつもりだったのだが、やはりどうも声の調子がおかしい。
声帯システムの異常?―――いや、これはむしろ……。

……考えても仕方が無い。

オレはむくりと起き上がってベッドから降りた。
立ち上がろうとしたが何故か立ち上がれず、四つんばいのまま移動せざるを得なくなったのだが、それでもその不自然な姿勢になんら違和感を感じないのが不思議だった。
むしろ軽快な気分でオレはベッドから降り、改めて部屋を見回して―――オレは再び仰天した。
天井がやけに高い。高すぎる。
天井だけじゃない。他の家具もトロフィー群も何もかもが高い位置にあるのだ。
先程降りたベッドも、まるで壁のように背後にそそり立っている。
オレは改めて手を見、その手でそっと顔に触れ、機体に触れてみた。
顔も機体も何もかも、柔らかいふさふさとした毛で覆われていた―――それだけでなく。
その顔も機体も、人工皮膚や装甲の感触とはまるで違う、あたたかくて柔らかい感触。
オレは愕然とした。
これではまるで、有機体のようではないか。
ましてやこれは。
「わ……ふぅ…」
猫とは違う声―――これは、紛れも無く。
恐る恐るオレは窓へと足を踏み出し、朝日を目いっぱい取り込む窓ガラスに己の姿を映し出す。
そこにあったのは、いつもの赤い装甲をしたロボットではなかった。
茶色い毛並みの、ややつり上がった目をした小さな小さな―――それは、犬だった。
黒目がちの瞳がじっと、オレの顔を覗き込んでいる。
思わず腕を差し出すと、窓ガラスに映った犬も前脚を差し出しぴたりとオレの腕へと重ね合わせる。
間違い無かった。
間違い無く、オレは今、この小さな犬になってしまっているようだ。
「うぉん……」
嘘だろ、という呟きはやはり言葉にはならない。
窓ガラスの中の小さな犬は、さも悲しげな様子で、ぱくりと口を開けていたのだった。










しばらく呆然としていたオレの背後で、ドアが開く音が聞こえた。
「クイック。もう起きているだろう?少し尋ねたい事ががあるのだが……」
ドアが開くと同時に聞こえたその声に、オレはびくりと肩を竦めた。
あまりにも聞き覚えがありすぎる、その硬質な声。
振り向かなくても、そこに居るのは誰かなんて容易に判断できた。
そしてそれが、今のオレにとって最悪の事態の幕開けになる事も。
オレは震えながら、恐る恐る背後を振り返り―――想像通りの人物が立っていたのを改めて視認して、わふ、と情けない声で鳴いた。
そこに居たのは修羅だった―――否、メタルが文字通り修羅のような殺気を纏ってそこに立っていた。
そろりと息を吐いて、メタルは地獄の底から響いてくるかのような恐ろしい声で静かに呟く。
「クイックは……何処だ、この、犬畜生めが……!!」
その声を聞いたとき―――オレは、あまりの恐怖に身を竦ませたままメタルを見つめる事しか出来なかった。
あまりの殺気に、目を逸らす事すら叶わない。
「誰にも告げずに無断外出し、あまつさえこんな犬畜生を連れ込むとは……後でクイックにも灸を据えてやらねばなるまいな……」
続いて聞こえてきた独り言に、オレはまたびくりと全身を震わせた。
全身の毛がぶわっと総毛立ち、「きゅう……」と情けない声が口から漏れ出て行く。
メタルはゆっくりとこちらに歩み寄り、絶対零度の目線でオレを睨めつけた。
その手に、銀色に光るメタルブレードを携えて。
「ともあれ今は貴様を粛清せねばならない……覚悟しろ、犬畜生め!!」
その声と共に投げつけられたブレードに、オレは咄嗟に身を翻して避けると一目散にドアを目指した。
「待て、貴様っ!!」
尚も投げつけられるブレードを必死にかわしながら、とにかく安全なところに逃げようとオレはひたすら走り続ける。
普段は何気なく通っている廊下が、今はやけに長く広く感じられた。
とにかく無我夢中でオレは逃げ回り―――不意に首根っこを掴まれ持ち上げられた。
いきなり宙吊りにされて、訳も分からず呆然としていると、
「やけにメタルがうるせぇと思ったら……原因はお前かよ」
低く通る声が、頭上から降ってきた。
確かめるまでも無い、オレを持ち上げたその声の主はまさしく今一番会いたかった者の声で。
「……何だ、もっと暴れるかとおもったら妙に大人しいな。まあ、とりあえずメタルの気が治まるまで匿った方が良さそうだな」
オレが動きを止めた事を都合よく解釈したのか、彼―――フラッシュはオレを抱き直して部屋へと戻っていく。
フラッシュの腕は大きくて温かくて、オレはこの姿になって初めて、酷く安心した気持ちになったのだった。










「何処から迷い込んだんだ?お前」
オレを膝に乗せて顎を撫でながら、フラッシュはそうオレに尋ねてきた。
無論オレは答えられる訳も無く―――ただ、顎を撫でるその優しい指先のあまりの心地好さに身を委ねる事しか出来ない。
フラッシュは溜め息を吐いて、「ま、答えられないよな」と呟いていた。
それから暫く無言のまま、フラッシュは顎を撫で続け―――優しい指先の感触にオレはやがてうとうととまどろみかけた、その時。
「それにしてもお前…なんだろうな。何か、知ってるような感じがするんだよなぁ…」
唐突に聞こえてきたその言葉に、オレは思わずびくりと身を竦めていた。
「何か、俺の知ってる奴に似てるような気がするっつーか……見た目全然違うのにな。何でだろうなぁ…?」
言いながら、フラッシュは顎を撫でていた指を移動させた。
「まあ、アイツは随分そそっかしくて危なっかしいからなぁ。きっと、お前がメタルに見つかっちまったの見て、そう思ったんだろうな」
そう言ってくくっと笑うフラッシュの声に、オレはぷちっと何かが切れたような音を聞いた気がした。
好き勝手言いやがって!とばかりに頭を撫でるその指に噛み付こうとし―――しかし、続けて聞こえてきたその声に、オレはぴたりと動けなくなってしまった。
「……それにしても、何処行っちまったんだろうなぁ、アイツ…無断で外出するなんて、滅多に無ェ筈なんだがなぁ……」
その声は、あまりにも寂しげで。
「……俺のところにも来ねぇで、何やってるんだろうな」
そう言って、フラッシュはするりと頭を撫でる。
オレは体を震わせて、ただその手を受け入れ続けた。
オレはここに居ると、そう声高に言ってやりたかった。
オレはここに居る、だからそんなに寂しそうな声を出すな、と。
けれども今のオレはまともに喋る事も出来ないただの小さな犬で。
何か喋ろうとしたところで、何か叫ぼうとしたところで、結局は無力に吼える事しか出来ない今のオレには、フラッシュを安心させる術など何も持っていないのだ。
こうして、寂しさを紛らわせるようにじっと彼の傍に居てやる事しか。
「お前は、知らねぇだろうと思うけどよ」
話し相手が欲しいのか、聞いてくれる相手が欲しいのか、フラッシュはまた言葉を続けた。
「お前に似ているって言った奴はな、一度見たら忘れられねぇくらい奇麗な顔してんだ。戦闘用なのに、不必要なまでに整った顔をしていてな…正直、最初見た時は別用途のロボットかと思っちまったくらいだった。まあ、そんな事は間違っても本人の前では言えねぇけどな」

「そのくせ、いざ戦闘となれば誰よりも強くてな…その、戦ってる時のアイツはまた一段とその美貌が際立って誰よりも奇麗に見えるんだよ。どんな相手だろうと一直線に正々堂々と挑むアイツの戦い方を見ているとな、段々と…目が、離せなくなる。見惚れちまうんだよ、ついな。それで…見ているうちに段々と、俺の戦い方との違いに気付かされて愕然となるんだ。俺の戦い方は、アイツとは違ってあまりにも汚い。卑怯だと言われるような事も、汚いと罵られるような事も、勝つ為に、目的の為にあらゆる手段を用いる俺の戦い方は、アイツのものとは比べようも無い。だから愕然となる。不釣合いだと思ってしまう……だから時折、俺はアイツの隣に相応しくないんじゃないかと思ってしまうんだ」

「だが、それでもアイツは俺を好きだと言うんだ。お前は卑怯なんかじゃない、お前はお前の能力を最大限に生かす戦い方を知っているだけだってな。だからお前の戦い方を、オレは汚いとは思わないってよ。……そう言って、アイツはいつも俺を赦す。俺は俺のままでいいと言ってくれるんだ。…だから、俺はアイツを愛するって決めた。アイツの強さも弱さも、全部受け止められるような奴になりてぇってな。…まあ、お前には分からないだろうけどな」
そう言ってオレを撫でるその手は、やはり優しくて。
オレは今にも溢れ出しそうになるものを抑える事は出来なかった。
体が震えて、呼吸が落ち着かない。
ぼろ、と涙が零れ落ちる、それを何とか拭おうと肢を動かした―――その時だった。
「――――――!!?」
フラッシュの指が、頭から耳に移動したその時、言いようの無い感覚に襲われたのは。
耳の付け根を揉み解すように指を動かし、根元から耳の先にかけてすうと撫でられるたびに、形容しがたい感覚に襲われる。
何だこれ、と思っていると、フラッシュのもう一方の手がオレの背中を擦った。
背中から、尻尾にかけてするりと手を滑らせる、その度に言い知れぬ感覚が体中を駆け巡る。
―――否、これと似た感覚を、オレは確かに知っていた。
そしてその感覚が、どういった時に齎されるものなのかも。
「…へぇ、尻尾がすげぇ揺れてる。気持ち良いのか?」
語りかけてくるフラッシュの声も、最早気にならない。
「じゃあ、もっとしてやるからな」
言いながらフラッシュが耳を撫で続ける、オレはその度にぞくぞくと駆け巡る感覚にただ体を震わせ―――








「やっ……ちょ、フラッシュ、も……っ!!」
触れられる感触にびくびくと機体を震わせながら、オレはうっすらを目を開いた。
「……んだよ、起きちまったのか。寝惚けてるお前をもう少し堪能したかったんだけどなぁ…?」
唐突に降ってきたその声に、オレの意識は急速に覚醒していく。
目を覚ましたオレの視界に飛び込んできたのは、見慣れた青い機体だった。
眠るオレの上に覆い被さったまま、ソイツはニヤニヤとオレの顔を覗き込んでいる。
「それにしても、夢でも俺を求めてくれるとは思わなかったぜ。あんなに俺の名前を呼んでくれるとはなぁ……嬉しいじゃねえか、なぁ?」
そう言いながら頬を撫でる、そのフラッシュの顔をオレは呆然と見つめていた。
何が起こったのか、暫く現状を把握できなかったが―――やがて、少しずつ状況が読めてくるに遵って、かあ、と顔に熱が集まっていく。
「まあ、まだ夜明けも遠いぜ。もう少し―――」
「………阿呆かテメェはああああああああああああああああああ!!!!」
「げふぅっ!!??」
少しも悪びれる様子も無く近付いてくるその顔に、オレは思い切り右ストレートをかましてやった。
全く予想だにしていなかったのか、フラッシュはモロにそのパンチを喰らい、勢い良く吹っ飛ばされていく。
「テメェ何寝込み襲ってんだよ空気読めっつーんだこの野郎!!夜明けも遠いぜじゃねえよ馬鹿かテメェ!!」
「ぐ…ちょ、ちょお待てクイック!大体―――」
「うるさい、問答無用だこの馬鹿ハゲ!!いっぺんネジから出直して来いこの野郎ーーーーー!!!!」
がず、と続けて放った回し蹴りが見事に決まり、フラッシュは蛙が潰れるような声を上げたまま動かなくなってしまった。
はあはあと荒い息を繰り返しながら、オレは動かなくなったフラッシュを見つめる。
「……だから、テメェは馬鹿だって言うんだ、この野郎が……っ!!」
それだけやっと呟いて、オレはフラッシュの頬を撫でた。



―――勝つ為に、目的の為にあらゆる手段を用いる俺の戦い方は、アイツとは比べようも無い。
―――だから愕然となる。不釣合いだと思ってしまう……だから時折、俺はアイツの隣に相応しくないんじゃないかと思ってしまう。



夢の中でそう言ったお前。
それが果たしてオレが作り出した『夢』でしかないのか、それともお前の本心なのかなんて、俺には分からない。
だが、それでも。

「あんまり、考えすぎるんじゃねーぞ、馬鹿…オレは、どんな事があってもお前を否定したりしないからな」
例えどんな事があろうとも、決してオレはお前を軽蔑したりなどできないのだから。

そう呟いたその声は、フラッシュには聞こえていないだろう。
けれどそれでも構わないと、オレは思った。
あの時も、フラッシュは決してオレにその声が届かないのを知っていて言っていたのだから。

「いつか―――ちゃんと、お前の口からその事を聞かせてくれよ?」

フラッシュの頬を撫でながら、オレは誰にとも無く呟く。
ふと、撫でられている事を感じ取ったのか、すり、とフラッシュがオレの手に頬を寄せてきた。
その様が、やけに可愛らしく見えて―――まるで、大きくてゴツイ犬がそこに寝転がっているようにも見えて。

オレはそんなフラッシュを見つめながら、いつまでも彼の頬を撫で続けたのだった。







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