時鴇様より千番リク文 蛇双子
時鴇様宅で千番踏んだ際にリクエスト"あさき曲で文を" 雫 で素敵綺麗な蛇双子を頂戴致しました感涙の滝。有難う御座いました。





「雫」





静かに輝く月
凍てつく氷湖
雪化粧の山々

氷に閉ざされた基地周辺は一色、月に照らされたそれは恐ろしいくらいに煌めく白。
吐き出す吐息さえも同じ色で思わず苦笑う。

美しい景色だった。
美を愛する恋人に相応しい場所だと。

「ジェミニ…」

しかし、隣に佇む彼は笑おうとしない。それどころかその体は小さく震えていた。

寒さなど無縁な俺達。恋人が震えている理由はただ一つ。

数日前、シグナルを発して消えた一番上の兄。

「あ…」

一言も発さずに景色を見つめるだけだったジェミニが、やっと口を開いた。
青く透き通った瞳が空を仰げば、ちらちらと降り注ぐ物。

「雪だ…」

やっと聞けた声、習って夜空を見上げると、雲の切れ目から顔を覗かせたままの月が映り込む。
星が落ちてくるような、雪が光の粉に見えた。

「綺麗だな。」

「ああ…」

綺麗だと口にしてから、いつだったかお前には情緒が無いのかと問われたことを思い出す。
そうやって笑いあって、ずっと続くと思っていた。


雪と同じ白い左手をそっと握る。
いつもなら離せと言って振り解かれるはずの俺の右手。

それは離されることはなく、寧ろ離れないようにと握り返された。

「ジェミニ…」

右へと顔を向ければ、夜空を映していた瞳が俺を見ていた。


ニードルの基地から一番近いのは俺の基地だ。


「行く…な…」


それはナンバーズとして、兄弟として決して言ってはいけない事だった。

信じて送り出すべき気持ちと、失う不安。
今の恋人はまるで、迷子のようだ。


「ジェミニ。」


繋いだ手を引いて、迷う心ごと包み込むように抱き締めた。

「うっ…く…」

交差して、触れ合う頬に伝う雫。
人前で決して見せようとしなかった涙を、ジェミニは俺のために流してくれる。

それだけで、幸せ。


「泣くなよ…」


俺まで迷子になってしまいそうだ。
ずっと抱き締めていたい。
離れたくない。


俺はこんなにも
ジェミニを


「スネーク。」


一陣の風に
雪が舞った

星が回るように
俺達の隙間を埋めるように


煌めいて
消える


同時に口にした
言葉さえも



氷湖のほとり
互いの外部接続イヤホンから、俺の出撃命令が下った




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