『乙女心は分からない。』
スクツナでけんか。
五分で描いた落書き漫画。
*****
「てめぇはリスかぁ」
思えば元凶はこの一言だった。
「はぁ?成人の男にリスはないだろ」
母さんが送ってくれた日本の懐かしき駄菓子たちをほおばっていると,私室の窓から侵入してきたロン毛がつぶやいた。
「母親に菓子送ってもらってるような野郎のどこが成人なんだぁ」
「うるさいよアホ鮫」
「図星だろうが」
ちょっと腹が立ったのでシカト決め込んだ。
だいたいこいつはいつもそうだ。
オレのことガキガキって。
そりゃさ,出会ったときオレは14でこいつは22で,ガキにも見えたろうし時が経った今でもやはり年齢差は縮まらない(縮んだら怖い)。
でも,オレだっても21で,お酒も呑めるし車も運転できるし…性的な意味でも,スクアーロに大人にしてもらった,否,させられたわけだし,子どもな点なんて数えても片手でおさまる。
今更だけど,ちょっとした反抗期モードに入った。
いや,絶妙にいらっと来るツボを押すこやつが悪い。
「スクアーロなんか,コモドオオトカゲになればいい」
「…」
うわ,泣きそう。
なんで泣きそうかって?
なんでここまで固執するかって?
もちろん,わけがある。
あれは数日前のことだ――…
『スクアーロ,見てこのペンダント鮫だよ!オレこれスクに買ったげる!』
『ぁ?あ゛ぁ,獅子もあるぞぉ』
『獅子って…(笑)ほんとだ!じゃあ,これも買おうかなー』
とりあえずペンダントを置いていろんな動物をモチーフにしたアクセサリーを見た。
スクアーロはいつの間にかいなかったけどトイレにでも行ったかなーと思いつつ,
これは獄寺くんで山本で…とにこにこしながら物色している間にスクアーロが戻ってきた。
『ぉらよ』
渡されたのはガラスのケースに入った鮫のペンダントだった。
『えっ,ちょっ,スク!オレが買うって言ったじゃんん!!』
『……てめぇはガキなんだから素直にたかっとけぇ』
『たかるって人聞きの悪い…ってかガキって何!オレお前の上司なんですけど!ちゃんと給料もあるからなっ!!』
憤ったはいいが外なのでけんかは控えた。俺たちがけんかすると町の安全を保障しかねる。
結局,その怒りは今の今まで蓄積され続けた。
だって,だってさ?
オレがあげたかったんだ。
いつもスクアーロは,オレなんかにはもったいないくらい愛をくれて,でもオレは照れ屋だしチキンだしツンデレだから,そのお返しをうまくできない。
だから形に残る愛をあげたかったんだ。
くだらないってわかってるけど。
ペンダントを見るたびにオレを思い出してほしいな,なんて浮ついた乙女心だ。
こんなんでよくマフィアのボスなんかやってるよな。
あぁそうだ,どーせオレはガキですよ!
「スクの馬鹿!仲直りなんかしてやんない!!」
涙目で逃げる背中を「う゛ぉ゛おい待てぇ!今のが不正解ならどんな反応すりゃ良かったんだぁ!!」という声が追う。
でも本人は追ってこな――追ってきたぁぁぁぁぁ超こえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
なにあれロン毛って風の抵抗とかないの!?
くそ,ハイパーモードならこの程度の速さは撒ける…が,死ぬ気丸飲む暇ねぇぇぇ。
そんなこんなでボンゴレボスは暗殺者に捕まった。
「ハッ…捕まえたぜぇ」
「はぁ,はぁ…っ,ヴァリアークオリティくそくらえ…!!」
「あっぱれ,の間違いだろぉ」
オレは首根っこをつかまれて自室に連れ戻される。
「くそロン毛…」
「ちっ…,で?なんなんださっきのはよぉ。何に怒ったんだぁ」
察しろよ。剣帝バカ。
「…これ」
オレは自分の首元についた鮫を顔の前に持ち上げて見せた。
「あ゛…?まさかてめぇ,こないだのまだ怒って――…」
「ったりまえだろ!オレが買うって言ったじゃんか!いっつもガキガキ言いやがって,オレにも少しくらい愛をあげさせろよっ…」
オレがすごい剣幕で言うとスクア―ロは呆気にとられたあと,
「…は?」
と言いやがった。全く腹の立つやつだ。
「だから!いっっっつもお前は大人の余裕とばかりにオレに色々買い与えたり世話焼いたりしてオレを愛してくれるけど,オレはお前に何もしてやれない…オレだってお前のためになんかしたいのに。オレは,スクアーロのこと」
全身で愛したいんだ。
そういった次の瞬間,スクアーロに抱きしめられた。
「っんとにてめぇはかわいいことばっか言いやがって…」
「…?」
「お前,オレが大人だと思うかぁ?」
「ぇ,…うん」
「ならオレのごまかしは効いてんだなぁ」
「どーいうこと…?」
スクアーロはふぅとため息をつき,一間おいた。
「オレはまだまだガキだぁ…お前のこととなるとなおのことなぁ」
「…ぅ,嘘だ。いつもオレのこと馬鹿にするし」
「ハイおれガキですなんざ自ら言うやつがいるわけねぇだろうがぁ…。嘘じゃねぇ。お前がオレにくれるといったこのペンダントを逆に買ってやるなんて言う興ざめたことをしたのにはわけがある」
「わけ…?」
「あ゛ぁ。覚えてるかぁ,綱吉ぃ。てめぇは鮫のペンダントをオレにくれると言った」
「あ,うん…それも引っかかってたんだよ。なんでオレが鮫の方もらったんだろうって」
「…お前に付けてもらいたかったんだぁ」
「え…?」
「鮫はオレ,獅子は綱吉。それぞれを身につけるより,お前の胸にオレを抱えてほしかったし,オレがこの胸にお前を抱きたかった」
スクアーロがチャリ,とペンダントを持ち上げ,ライオンの顔をちらつかせる。
「なっ…!///」
なんか,よくわからんけどすげーはずかしいこと言われてるきがする…!!
「つまり,その鮫を見るたびにオレのことを思い出してほしかったんだぁ…だがてめぇに買わせるとオレが鮫を持つことになるからなぁ,鮫が嫌なわけじゃねぇが綱吉の気も知らずに大人げねぇことをしちまったぁ,すまねぇ」
困ったように謝罪して眉を寄せるスクアーロを見ながら,あぁなんだ結局オレたち考えてること一緒じゃんと少し笑えた。
「…何わらってんだぁ…?」
「ん,ごめん。だってほんとにスク,ただの駄々っ子じゃん」
くすくす笑うオレに,スクアーロはきまりが悪そうに頬を掻いた。
「るせぇ…自覚済みだぁ」
ひとしきり笑い終えたあと,今度はオレが種明かしの番だ。
「一緒だよ」
「?」
「オレも,ね。オレがあげることで,このペンダント見るたびにスクに思いだしてもらいたかったんだ。」
見ると,驚いたようなスクアーロも,しばらくしてくつくつと笑いだした。
「くだんねぇエゴだよなぁ」
「ほんとにね」
「ったく,てめぇはもっと分かりやすい愛情表現をしろぉ。毎度ツンツンされてちゃオレの気がもたねぇ」
「無理。生憎素直じゃないんで。なんだかんだ言ってスクはそんなオレのことスキでしょ?」
ね?と見上げるとスクアーロが真っ赤になって,それがまた,余裕ないの俺だけじゃないんだと安心と愛しさをくれた。
「まぁ,今回はどっこいどっこいだなぁ」
「うん。ちょっと言葉が足りなかったね」
多分この反省は,三分後にはまた忘れる。
それでも,いい。
けんかして,もっかい,いや何度でも愛を確かめ合えばいいんだ。
オレの乙女心(自分で言っていて情けないが)はいまだにこいつは理解してくれないし,こいつの妙に意固地な男心も同性なのによく分からない。
でも,最終的に行きつくのは同じで。
やっぱり,ね。
おれは君のこと全身で大好きって言って,君はオレに微笑んで愛してるって言うんだ。
END
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