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椿リンカさんへの捧げもの(屋根裏の散歩者)前篇
今思えばあの女が僕のことを見なくなったのはいつのことからだろうか?

あの男が来る度に押入れと言う薄暗い部屋へと追いやられたのはいつから?

その度、あの男が帰るまで飽きるほどの長い時間を過ごすうちに僕は気付いた

押し入れの方から入れるもう一つの空間の部屋を発見したことに…




『暗黒の底から』



その部屋は埃だらけで黴臭かったが新しい僕にとっては冒険の場所を見つけたようで新鮮な体験だった

その場所を音立てずに歩き回るうちに1つの穴から何か声が漏れて来るのに僕はその穴に顔を近付けて覗き込んだ

その穴からはあの女が男の身体の上に跨りだらしなく口を開けているその姿だった

あの女…僕の美しい母さんが乱れているその姿に僕は正直腰を振るあの行為が楽しいのかと不思議に思えた

それにひとまず押し入れへと帰り、あの男が帰るまでの間を過ごした

そして押し入れの部屋から解放された時になんとなく僕は聞いてみた

「ねぇ?母さんはあの人のこと好きなの?」

その言葉に僕に似た目がほっそりと微笑み、口の奥から「そうよ」と言葉が出て来た

「でもあの人はなんでここにずっといないの?お外へ出て行くの?」

その言葉には「お仕事だからよ」と返事が返ってきた








…ああ、もうすぐかあさんの誕生日だ

カレンダーを見つめて僕は溜息をついた

外に出られない僕はなにも用意することが出来ない

母さんが今一番欲しい物って何だろう?

母さんを笑顔にしてくれるもの…

そんな思いで屋根裏で穴を見つめながら思いついたたった一つの思考に子供は思わずくすくすと笑った

「ねぇ?今度あの人が来るのはいつなの?」

僕の言葉に母さんが顔を向けてこう応える

「私の誕生日の日よ」

それがどうかしたの?と首を傾げる母に僕は首を横に振った

「ううん、なんでもその日は僕いつもより大人しくしてるねッ、ねぇねぇ母さん…」

僕のお誕生日もうすぐだね?とにこやかに笑った僕に母さんも微笑んだ






そしてその日、僕はさっそく天井裏に上がった

手に台所から隠し持って来たナイフを握り締めて

そしてその時を穴から窺った

前まではあの二人が行為を終え、寝息を立てるその時までは退屈だったけど今は楽しみで仕方ない

だって母さんにようやくプレゼント出来るんだもの…

そして長い長い間がようやく終わり、僕は屋根裏から押し入れの中へと降りた

そして静かに襖を開けた

そして静かに静かに二人へと近づいて行った

僕の着ているぶかぶかのシャツが床を擦っても二人は目を覚まさなかった



かあさん



おたんじょうびおめでとう





一瞬の静寂の後、僕はゆっくりと微笑みながらその言葉と共に男の首へとナイフを突き下した

切裂くようにナイフを動かした所からぬるっとした温かい液体がぼくのシャツに飛び散り布団を赤く染めた

その痛みから悲鳴を上げ、床を転がりながら悶える男に僕はナイフを胸へと突き下した

その瞬間、さっきまで激しく蠢いていた肉の塊が静かになり、その光景をぼうぜんと見つめていた母に僕は言った

「ほら?母さんこれでずっと一緒にいられるよ?」

そう微笑む僕に母さんは悲鳴を上げながらタオルや服などで喉の奥から溢れて来るモノを止めようと躍起になった

「お誕生日おめでとう…母さん、どうしたの?嬉しくないの?」

ああ、そうか目がちゃんと見えてないもんねと無邪気に笑いながら指先で瞼をこじ開けて中から二つの球体を引っ張り出した

「ほら…これで笑ってくれるでしょ?」

そう前に差し出された血みどろになったその球体のモノに母さんは叩き落としてその次に僕の頬を腫れるまで何度も叩いた


いたいよ


かあさん


なんでよろこんでくれないの?


その後、茫然としている僕を床へとほおり投げて母さんは必死にリビングへともつれる脚を引きずりながら移動した


いやだ


もうどこにもいかないで


ぼくをちゃんとみてよ


かあさん…


ぼくといっしょにいて…


必死に慌てながら電話のダイヤルを回し向こうへと声にならない声で叫ぶ母の姿に僕は床へと転がっていた鋭利なモノを握り締めてゆっくりと近づいた

「大好きだよ、母さん…だからその目を僕に頂戴」

ちょっと早いけど僕の誕生日プレゼントにねと…ゆっくり囁くそのモノの目は異様に暗くてもはやこの世の産物では無いように思えるぐらいの闇の色だった

「大丈夫…直ぐに痛くなくなるから怖がらないで…」

その後、母が最後に見たものは…



自分へと嬉しそうに喉の方へとナイフを振り下す自分の息子の顔だった


か あ さ ん


ア イ シ テ ル


死んでもずっとずっと側に置いて愛してあげる


だから母さんも僕をずっと見て…


いまや動かなくなった身体から二つの球体を取り出して水の入ったコップへとそれを入れて子供はそれに嬉しそうに頬ずりをした

あの後、もちろんこのことは周囲を騒がす傷害事件として有名になった

でも僕は見つからなかった

屋根裏に永遠にずっと眠くなるまでコップを握り締めて横たわっていたから…

その時が訪れるまでその間は今までよりも何倍も苦しかったけど…

母さんが側にいてくれるから

今まで生きていた中でずっこく幸せだった…








そして何年化した後に周囲にある噂が広まりその闇の力から僕が生まれた

その時、屋根裏で今や風化してしまった小さな骨から影が広がりゆっくりと形を成して行った

(あれ?どうして僕はここにいるんだろう?)

その噂とは皮肉にもこの事件から生まれた屋根裏の散歩者と言う噂だった…

(それに何かすっごく大事なことを忘れてるような気がする…)

闇の中から新しい肉体を得て甦った青年が屋根裏の奥を見つめながらその何かを思い出そうとした時に…

「お母さん!」

どことなく明るくて元気な声に青年の視線が穴の方へと向けられた

「ここが私の部屋になるの?」

その声の主は可愛らしい笑顔を持つ少女だった

その瞬間、その青年の中で何か衝動が湧きあがった

あの子の目が欲しいと言う貪欲なモノの

「楽しみ!早くここに越せたらいいね!」

それにその青年は口の端を歪めて笑った…



僕も楽しみだよ…君がここに来るのが…

これが新しく生まれ変わった屋根裏の散歩者の都市伝説の幕開けだった…




end


キリ番を踏まれた椿リンカさんへの捧げモノですw

屋根裏の散歩者が生まれたその理由みたいなものを小説にして見ましたwwもう屋根裏さんは育児放棄しかけてる母親の傍で育ったと言う可哀想な子にしか思えないw

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