[携帯モード] [URL送信]


in the rain


この日はいつだってぼうっとしてしまう。
だから今日も出がけに、ああ雨が降りそうだ、なんてぼうっと一本、傘を掴んだ。
柄まで真っ黒な傘。
黒ければなんだってよかった。
黒でなければならない日だった。
世界が黒に見える日だった。

重い曇天がどこまでも垂れ込める。
とうとう雨が降り出したのは、帰り道でのことだった。
ああ、降り出した。
やはりぼうっとそう思って傘を解く。
その瞬間だった。ぱっと視界が晴れたのは。
開いた傘の中から鮮やかな青が広がる。まるで別世界への扉を開いたかのように。
それは内側に青空が描かれた傘だった。
文字通り視界が晴れたのだ。
あまりの驚きに差すのも忘れ、呆然と見つめてしまう。
それはいつだったか、あいつがくれたものだった。
出掛けた時にふと見付けて、面白いななんて言ったらくれたのだ。
けれど実用にはどうも気恥ずかしいような気がして、いや、もったいなくて、傘立てにずっと納めていた。
それが今、このタイミングで。
黒い世界に切り込むように青空が広がる。
デザイン諸共とんだ仕掛けだった。
それともともすれば、あいつはこの時の為にこれを買ってくれたのだろうか。
柄を肩に当て、寄り添うように頭を傾ける。
頭上を覆う青い空に、あいつに包まれているような気分になる。
綺麗な青はどんな励ましにも盾にもなるような気がした。どんなに雨が降ったってきっと守ってくれる。
止めていた足を再び踏み出す。
大丈夫、生きてけるよと傘の向こうに向けて呟いた。



[次へ#]
[戻る]


無料HPエムペ!