雨が、僕らを覆うように静かに降っていた。1つの傘に入っている僕らは、そこだけが世界の全てだと、そう信じていた。のに。「……雨が、止んでしまうね」そう言って苦しそうに微笑んだ彼女を、僕は止められなかった。雨がだんだん引いて行くように、彼女の面影が遠のくのを感じていた。梅雨が終わる。世界を遮断するすべを持たない僕に、救いの手を差し伸べた紫陽花は干乾びる。太陽の視線が、僕を焼きつくす。雲の切れ間から射し込むように地上に降りてきた日の光を、君は掌で受け止めて、そしてキスをした。ああ、君だけは。「夏もきっと好きになれるよ、大丈夫」果たしてそうだろうか、新しい世界に踏み出す君を見送ることしか僕は出来ない。1人きりになった傘の中で、僕は傘の柄をきつく握りしめた。「……さよならだ」目を見開いた彼女の表情が、哀しそうに歪む。その顔を見たくなくて、僕は傘で彼女を隠した。世界は最期に僕を拒むだろう。僕が最期に彼女を拒んだように。


閉幕の宴

(さようなら、さようなら、どうかお元気で。)


2010.5月の最期に
菜槻








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